AI(人工知能)の研究が盛んに行われているのは、皆さんニュースで聞き及んでいることと思います。将棋の世界や囲碁の世界、またはチェスの世界においても、プロとAIとの対決が行われています。結果はご承知の通り、AIの目覚ましい進歩によって、徐々に人間を上回る成果を上げつつあると言って過言ではありません。
AIの発達によって、私たち人間の仕事もいずれAIに奪われるという、ショッキングな議論が交わされるほど、AIの未来が直ぐそこまで来ているかのごとき錯覚になります。
しかしながら議論やニュースを聞く限り、この議論は決して絵空事ではなく、現実に起こり得る未来を予言しているようです。
私が生きている間に起こり得ることなのか、自分の子供が大きくなった時にやってくる未来なのか、それは今の時点では判りませんが、AIが人に代わって仕事をこなす世界が人間らしい世界なのかどうか?
AIの進歩によっては多くの仕事が奪われるということで、今の若い人はどんな仕事を選択するべきか、と悩んでいる人もいるかもしれません。
なくなる仕事の中には、セールスマンや接客業、運転手さん、事務員までも挙げられています。なるほど、車も進化して自動運転となれば、人が運転する必要はないと言えるかもしれません。
接客業はどうでしょう。もしかすると接客ロボットが音声や姿を認識することで、お客さんの案内が可能になるということでしょうか。こうした世界というのは、ハリウッド映画に出てくる近未来を描いたものにソックリだと思いますが、どこか無機質なイメージがありませんか?
接客ロボットが機微に富んだ会話をして、まるで人さながらに対応するか、または人そっくりの表情を作れるロボットならば、ロボットに代わることもありえるのか?
私たちは縫製の仕事をしていますが、この縫製という仕事が無くなるかどうか?
身に着ける服がどういった進化を遂げるのか予想がつかないので難しいのですが、もしかすると素材(マテリアル)そのものが進化する可能性もあります。
例えば、縫製しなくても素材同士が簡単にくっつくという技術が開発されたとしましょう。そうすると布地をペタペタつなげることで、身体を覆うことが可能になるかもしれません。もしかすると服そのものがなくなってしまうこともあるかもしれませんね。シールドのようなもので覆われるとか。
AIの未来の中に、縫製の仕事はどうやら含まれてはいないようです。
繊維生地というのは無限と言えるほど、その種類は豊富と言っても良いでしょう。生地の薄さや厚さ、それから平滑度合、生地の伸度、もちろん素材の多様性。生地には多種多様な姿があることで、未だにミシンだってオペレーターが操作しないと、製品は仕上がってこないのが現実です。
プラスチック製品だったらどうでしょう。極短な話をすれば、おそらく型があれば24時間機械が生産することだって可能なのではないですか。もちろんセッティングなどの目に見えない技術の良し悪しが、品質に大きな影響を与えていることと思いますが、作るということなら機械が行っている訳です。
しかし繊維生地は柔らかさや伸び具合、その他諸々、機械がそれらを検知して、自動で製品が仕上がってくるなんてものは、今もって存在しないのです。
縫製という仕事は斜陽産業と言われますが、機械化という側面からはまだまだほど遠いのです。これは人件費が安い国に仕事を移管できた産業だったために、機械化が進展しなかったことの裏返しだとも言えますが。
いずれにしても、縫製というのはその人の手の感覚に大きく依存しており、手に込める力加減であったり、生地を押し込む加減であったり、習熟した技能を抜きにして成り立たない現場なのです。
あるミシンメーカーの人が言っていました。何十年と針を使わないミシンのようなもの(熱で圧着するイメージ)を開発してきたが、一向に製品化できずにいる、と。
本業のミシンメーカーの人が言っていることです。針と糸を使わなで縫製に似たものを作り出すことは、現実には大変困難な分野なのです。
こうしてみると、針と糸で縫うスタイルは、古いようですが延々と続く可能性を秘めていると言えないでしょうか。近頃では手に職をつけるという言い方は古いかもしれませんが、ミシンは良い選択ではないかと思うのです。
ただし、縫製業というものが日本を完全に離れ、遠くアジアやアフリカに移管されてしまうということにでもなれば、話は全く別です。そもそも国内に仕事がなくなる訳ですから。
でも0%になるとも思えません。どんな仕事も必ず求められるものです。縫製という仕事もそんな中に含まれる重要な仕事じゃないでしょうか。
今は多くを海外からの実習生に頼っているのが現実です。若い人がミシンを扱う割合はどんどん低下しています。縫製は高齢化が進んでおり、あと数年もすれば多くの人が引退するような業界でもあるのです。
その引退後に不足するミシンオペレーターを確保できなければ、縫製の仕事を継続できない企業が出てくるでしょう。廃業という選択肢しか残ってはいません。
仮に海外からの実習生に縫製を任せることになった時、誰がどのように現場を指揮監督すれば良いか、という大きな問題があるのです。日本の管理手法を徹底し、品質を維持向上させていくために求められるのは、日本人の縫製担当者、日本人のオペレーターだと思うのです。
縫製内職の方は高齢化が進行し、社内のミシンオペレーターに若い人が不足しており、先輩オペレーターは順次定年を迎えようとしています。先輩オペレーターが会社を辞めた後、適切な人材がいない場合は技能伝承もままなりません。
外国人実習生を指導監督できる若手人材は貴重であることがお分かりいただけたでしょうか。縫製の仕事は地味に見えるかもしれませんが、既に人材不足であり、どこの企業もその人材を求めていることは確かです。
縫製はその生地が代わったり、ミシンが代わったりしただけで、初心者のように縫えなくなるものです。自分の経験したミシンなら躊躇なく扱えても、経験のないミシンでは全くの素人のような難しさがあるのですが、そこは経験を重ねることでクリアしていけるものです。
そうした積み重ねは経験値として残り、オペレーターとしての技量が高まれば、どこに行っても働けるかもしれません。場合によっては、指導監督者という重要な立場を任されるのだろうと思います。
昔の日本には縫製工場が数多くありました。繊維産業が盛んだったころの話です。そのころは縫製業に携わる女性も多く人材も豊富でした。
ところが時代が大きく転換していきます。それまで輸出を中心として繊維産業は発展していましたが、固定されていた為替相場が変動相場へ変わると円高が進行しました。
輸出競争力を失ったのです。当然のことながら縫製工場は減少の一途をたどります。縫製の仕事も海外へシフトしていきました。そして縫製工場に就職する人が少なくなると、今度は外国人実習生の受け入れに舵をきったのです。
そして、今の現状があります・・・・
今、縫製工場が抱えている課題のひとつに、後継者不足が上げられます。縫製の担い手を海外実習生だけでまかなっていると、日本人のミシンオペレーターの平均年齢が上昇します。
気が付いたら、日本人オペレーターがわずかしかおらず、実習生頼みになる可能性があるのです。そして技術を日本人同士で継承できないという致命傷になるのではなかろうか、と。
縫製工場は中国での賃金高騰を嫌気して、既に今ではバングラディシュやインドネシア、ベトナム等に移っていきました。一部の縫製仕事は国内に回帰したと言われますが、繊維関連各方面で廃業している現状では、今さら回帰してきても対応する工場がないという笑えない状態なのです。
ただし、縫製という仕事が日本国内から無くなってゼロになるとは考えられません。高付加価値に特化した商品や、少量でもオリジナリティ溢れる商品を開発したいという企業は必ず現れます。海外では日本から発注するような短納期・少量・多品種に応じてくれる企業少ないでしょう。そうなれば日本国内に頼らざるを得ないのです。そこに日本の繊維産業の生き残る道があるのではないでしょうか。
そこで繊維産業に欠かせないもののひとつに、縫製という仕事があるわけです。もちろん染色等ほかにも必要不可欠な仕事はあります。
今の若い人達はミシン経験がほとんどないでしょう。もしかすると学校でも授業で習っていないかもしれません。繊維関連の仕事といえば、デザイナーやアパレル販売を思い浮かべるかもしれません。ある意味では華やかな世界のほうです。
しかし、ミシン縫製がないと商品に仕上がらない現実があります。糸で縫わないで接着で代用する技術もあるようですが、開発は遅々として進んでいない点を考えると、引き続き糸と針での従来通りの縫製スタイルが継続します。
パーソル総合研究所が発表した「労働市場の未来推計2030」によれば、日本はこれから前例のないくらいに人手不足に直面することになります。
縫製業界も同様の影響をうけることが予想されており、ミシン縫製と雇用の将来性は、技術の進歩や労働市場の変化に大きく影響を受けることがわかります。ミシン縫製のスキルを持つ人々は、将来的には貴重な人材となる可能性があります。また、労働市場全体としては、人手不足の問題が深刻化する一方で、一部の職種では大きな変化が予想されています。
弊社も台湾に工場がありますが、コロナ禍にロックダウンの影響でサプライチェーンが分断されたことで、なかなか発注した商品や資材が届かず大変な状況が続いていました。その後、日本国内で製造するメリットについて改めて考えるきっかけになりました。
その後の1米ドル=140〜150円付近に円安となっている状況がは、縫製業界に限った話ではなく全ての業種に共通でいえることと思いますが、大きく、海外で生産するメリットが徐々に薄れてきているように感じます。
ミシン縫製に携わる若い人が少ないということは、将来人材不足の不安が付きまとうのです。裏を返せば「ミシンオペレーター」は将来たいへん貴重な存在で、技術職のような存在になっているかもしれないのです。
それだけではなく、外国人実習生を統括して工場を運営することができる人材になるのです。こうした人材は今後、ヘッドハンティングの対象となるやもしれません。技術があって、縫製知識を有しており、なおかつ外国人実習生を束ねることが出来るような人は、必ず重宝されるのです。
ミシン縫製の仕事に少し興味を持った方は、是非現在の縫製環境を見渡してみて、可能性を感じたならチャレンジして欲しいと思います。
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